近くて甘い
第50章 選択
「そう…なんですか…」
加奈子が動揺していることに気付かない恵美は、無垢な笑顔で加奈子のことを見つめたあと、アッと声を上げた。
「そういえば、この前はごめんなさい…」
「え…?」
「あの時…要くん、あなたの事を、お付き合いしてる人だって言ってたでしょ…?」
急に抱きすくめられたあの感覚を、加奈子は今でも覚えている。
ほんの一時だったけれど…
「は…い…」
「私…すごくヤキモチ妬いちゃって…失礼な態度を取ったわよね…」
「………」
「でも、あとで要くんから違ったって聞いて…。本当にごめんなさい…」
恵美の言葉一つ一つが、加奈子の胸を痛め付けて行く。
違ったって…副社長言ったんだ…。
当たり前のことに異様に傷付いている自分がいやになっていく。
「いえ…こちらこそ…」
優しい微笑みから、加奈子は目をそらした。
もっと…
もっと嫌な人なら…
憎めたのに…。
なのに、この人の笑顔は、あまりにも優しい──…