近くて甘い
第50章 選択
「ではっ…私急いでいるのでっ…」
「あっ…」
恵美の声を無視して、加奈子は、逃げ場であったはずのトイレを飛び出した。
私は一体何を…
何を迷っていたんだろうっ…
「あ、かな、どうしたそんなに──」
「行こう、ハルっ…」
「えっ…ちょっ…」
グッと腕を掴まれて、春人は声を上げながら立ち上がった。
「待てよっ…何があったんだよっ!」
「いいから早くっ…早くここを出たいのっ…」
切羽詰まった様子を見せる加奈子を春人は不思議そうに眺めて、諦めたように財布からお札を取り出した。
「すみません…これで」
「あっ…今ご注文されたデザートが…」
「すみません…ちょっと急用を思い出して…。おつりも結構です」
そう言って、はぁ…と怪訝そうな返事をした店員にお金を渡すと、春人は、加奈子に腕を引っ張られたまま、お店を後にした。