近くて甘い
第51章 最後の約束
「ばからしい…」
思わずそう呟いた要の歩くスピードは速まる一方だ。
勘違いしていた事の恥ずかしさに、動揺を隠せない…
隠せないのだが、それでも、未だに加奈子のクッキーを恋しく思ってしまっている自分にまた要は苛立ちを募らせていた。
あと少しで、自分のオフィスだという曲がり角。
そのままのスピードで、歩いていた要は、反対側から同じようなスピードで歩いてきた人物と衝突して、思わずその相手を抱きかかえた。
「っ…すまない…僕が前を見ていなかったから──」
「ひゃっ…そんなっ…わわわわ私も──」
お互いにお互いの声にハッとすると、二人は顔を見合わせて、息を飲んだ。
「………田部さん…」
「かっ、要ふくしゃしゃしゃっ…」
相変わらず噛みまくりの加奈子の言葉に、要は思わずフッと吹き出した。
「っ……───」
久しぶりに見たその笑顔にトクンと胸を高鳴らせた加奈子は、その表情に釘付けになりながら唾を飲んだ。