近くて甘い
第51章 最後の約束
「驚いたよ…」
「…………」
私の選択は間違ってない…
間違ってない…
自分にそう強く言い聞かせながらも、要の声に、身体が反応してしまう…。
「実家の方に戻るのかな…?」
「はい…」
「そう…か…」
要の声が加奈子に入り込んで、心拍数を速めて行く。
離れてしまえば…
この会社をやめてしまえばきっと忘れられる…
「田部さんがいなくなると、この会社の活気も半減してしまうだろうね…」
「……そんなことは…」
未だ振り返ることなく拳をギュッと握った加奈子から、要も目を反らした。
「元気で…。
今まで、ありがとう…」
そのまま去って行く要の足音に、加奈子はついに振り返った。
「おっ、お食事っ…」
「え…?」
思わず発してしまった言葉に、加奈子は自分で動揺したあと、意を決したように、要と向かい合った。
これで…
これで最後にしよう…。
「最後に…っ。約束していたお食事にっ…連れて行って下さい…」
「あぁ…どういえば…連れて行くと言ったままだったね…」
「はいっ…」