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ショートラブストーリー

第9章 貴史

「たかちゃん、お帰り!!」

もうすぐ家につくところで、後ろから声を掛けられた。

振り返らなくても声で分かる。美夜子だ。

「お前の方が遅いんだからただいまだろ?」

「いいの!!お帰りって言いたいんだから」

相変わらずよく分からない理由だな。

「ね、たかちゃん。お願いがあるんだけど」

来た。…来ると思ってたけど。

「今日は物理か?」

「そう!!明日当たるの!!お願い!!」

付き合いだしてから、前よりも頻繁に『勉強教えて』コールが増えた気がする。

頼られるのは悪い気はしない。

教えてる時間、美夜子といられるのも悪くないし。

…だけど。

「…分かった。じゃあこれから行くから」

「え!?今から?」

「夕飯前に終わらせた方がいいだろ?」

「あ…うん…そうだね」

妙に歯切れの悪い美夜子と一緒に家に戻る。

隣同士で付き合ってるのがどう思われるかなんてどうでもいいって思ってた。

だけど、変な噂たてられて傷付くのは、俺じゃなくて美夜子だ。

そう気付いたから、夜に二人で会うのを避けている。

その事に美夜子も薄々気付いているのか…こんな風に口ごもる時があって。

別に会えない訳じゃないし。

感情に流されちゃいけない。

俺は自分に言い聞かせた。

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