まとまらないお話たち
第6章 6
噂でハル子は3年の加藤というサッカー部の主将と、付き合っているらしいことは聞いていた。
影で美男美女カップルという噂があるのを彼女は知っているかしらないが、どうりで最近自分への態度が妙に偉くなったはずだ、と君村は感じていた。
いかにも自分は恋人がいるから偉い、みたいな、前よりもさらに。
ふざけるな、女ぐらい俺だっている、……遊びの、だが。
(もちろん悪い意味で)気になってはいた…あの生意気女を落した小僧が。
他の女生徒のように自分に近付くかと思った彼女が、近付いたほかの男。
外見か性格か、はたまたセックスの相性?
いや…まだ中学生のガキじゃそこまでいかないだろう、せいぜいキスぐらいまで。
そこまで知識を持っているとは思えないし、…あ、でも男子はエロ本にはもう興味を持つ年齢か。
まぁ飢えている奴はAⅤを見始める頃だし。
ビデオまではいかないでも、自分もそうだった。
だから真面目で通る加藤も例外じゃないはず、現に彼女の方は『目覚めて』いるようだし。
『イケナイ子。放課後、あの人を待つ私はイケない子』
目覚めて……。
「っ!」
ガチャン、という音と共に湯のみが倒れ、中から緑色の液体が零れ出た。
なんでまた顔を出すんだ、この野郎。
どっかのエロ本の表紙に書かれていた表題が飛び込んでくる。
同時にセーラー服を着た老けたAⅤ女優と、頭の薄い白衣姿の男。
ああ、そういやこの学校もセーラーだったな……なんて余計な考えは隅の方へ。
「君村先生、大丈夫ですか?」
反射神経がいいのか、すぐさま隣にいた女教師が雑巾を持ってきたが……。
「あ、篠原先生すみませ…」
「君村先生」
慌てて一緒に机やら床やらを拭いていた手が、ピクリと止まった。
嫌に胸の鼓動が耳の奥で響く。
…嫌な汗が、頬を伝う。
「この前の自習プリントです。遅れてすみませんでした」
顔を上げると同時に、こちらに白い紙を向けながらその制服姿の少女は頭を下げた。
―――――今、このタイミングで本人が現れるとは。
「…あ。あぁ…、別に………」
こちらの態度に彼女は不思議そうな顔をする。
落ち着け自分、落ち着け俺。
必死に宥めながら、エロ本のあの表紙を頭から消しながら。
…君村は震える手でハル子からのプリントを受け取った。
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