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まとまらないお話たち

第2章 2

そして、帰ります。
す、と指輪を外しなかば強引に藤堂へと押し付けて。
肩かけカバンのヒモをぎゅっと握りしめ、きびすを返す。
「山郷!」
寒いギャグを続けられるのは、きっとみんな藤堂の若さを理由に、甘やかしているから。
でも私にはそんなの通じないよ、センセ。
若いうちからそんなのでどうするの。
顔がいいから好かれてるだけで。
顔が悪くておまけに親父ギャグなみのものを飛ばすんじゃいくら若さがあってもみんな見放すよ、先生のこと。
「悪かったから、ホラ」
振り返った私に向かい軽く手招き。
〝もどってこい〟
「…」
腹が立ったから本当に帰ろうかな、とは思うけど。
「……ユリ」
名前を呼ばれたからじゃない、その笑顔のセイじゃない。
でもどくん、とひときわ強く心臓がはねた気がしたのはなんでだろう。
「ユリ」
「〜〜〜っ、わかりましたからッ、名前呼ばないで下さい!!」
思わず見とれるような笑顔見せておいて。
そしたら今度は飼い主にすてられた子犬みたいな顔で人の名前を呼んで。
策略家だ…藤堂先生は、本当に。
「…な、山郷は幸せってどこから来ると思う?」
数歩手前まで行くと更にぶんぶんと手招きするのでまたもため息半分、近付いた。
藤堂先生は座席がくるくると回る椅子に座って、私は立ったままで。
なんか普段は見下ろされるような感じなのに頭一つ分先生を見下ろすっていうのはなんか変な感覚だなぁ、と思った。
近付いたとたん、左手だけ先に先生の方に引かれて。
束の間指輪が薬指に向けられたような気がした………のは、気のせいかもしれない。
小指にはめる動作がとにかく素早かった。
「?」
しかも無駄に思考はそれていたので藤堂の言葉を聞いたまでは良かったんだけどその意味をよく考えていなかった。
……幸せ、がどこから来るか だっけ?
さあ…どこから来るんだろうねぇ? うん、素朴な疑問だよね。
「知らないのか?」
「はい」
そもそも気にもとめていませんけど、そんなこと。
だってなんか私ここの所不幸づくしだったから幸せの「し」の字もなかったからああきっと神様に見放されたんだな、とか考えていたし。
うん、でも…来てくれる方法があるなら、良いよね。
「…教えてやる」
しかしそこで得意げに先生がニヤリと笑ったのはなんでだろう、うん。
少しだけ椅子を引いて。
かと思ったら先生は開いた両手を私に向けた。

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