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無垢な姫は二度、花びらを散らす~虫愛ずる姫君の物語り~

第5章 四の巻

 公子は震えながら謝罪の言葉を口にするしかない。眼をまたたかせた刹那、溢れていた涙がつうっと頬をころがり落ちた。
「無駄だ。幾ら俺を拒もうと、そなたは俺を拒むことはできない。そなたには既に女御入内の勅命が降りている」
 刹那、公子の黒い瞳が大きく見開く。その双眸はあまりの衝撃と驚愕のあまり、凍りついたように動かなかった。
「父は、―左大臣である私の父は、そのことを承知したのでしょうか」

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