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無垢な姫は二度、花びらを散らす~虫愛ずる姫君の物語り~

第5章 四の巻

 幼き日、雪柳の花びらが舞う庭で、やはり、こんなことがあった。あの時、帝は八歳、公子は九歳だった―。あのときも公子は〝醜女〟と心ない言葉を投げつける帝を力任せに殴ってしまったのだ。そのときのことを言っているのだと、公子にもすぐに判った。
 別段怒っているようにも見えなかったけれど、この湖のように静まり返った表情がかえって底知れず、怖ろしい。

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