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無垢な姫は二度、花びらを散らす~虫愛ずる姫君の物語り~

第5章 四の巻

 その瞬間、公子は掴んだ香炉を思いきり振り上げた。ガツンと鈍い小さな音が聞こえた。
 公子は最初、何が起こったのか判らなかった。しばらくその場に茫然と座り込んでいた。ハッと我に返った時、随分と長い刻が経ったようにも思えたけれど、実際にはたいした刻は要してはいなかっただろう。
 公子は眼前の光景に固まった。
 帝が布団に仰向けに倒れ、ぐったりとしていた。

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