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無垢な姫は二度、花びらを散らす~虫愛ずる姫君の物語り~

第5章 四の巻

 ふと現実に戻った時、公子は清涼殿の庭にいた。どうやら、廊下から落ちた後、帝に見つかるまいと走りに走って無意識の中に鬱蒼とした樹々が重なり合って作る翳の中に逃げ込んだらしい。
 ここは庭の隅で、廊下で所々焚かれている篝火の明かりも届かない。夜の闇が凝って更に深い闇を作り出しているような場所だ。ここまで逃げ延びることができたのは不幸中の幸いだった。

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