無垢な姫は二度、花びらを散らす~虫愛ずる姫君の物語り~
第5章 四の巻
公子は眼の前に続く闇を見つめ、一瞬、心細さを憶えた。自分一人では、こんな人気のない道に放り出されてしまったら、きっと泣いてしまうだろう。幾らしっかりした姫だとはいえ、所詮は左大臣家の姫として大切にかしずかれて育った身なのだ。
だが、自分の眼の前にある男の広い背中を見ていると、その心細さも薄れてゆくようだ。初めて出逢った相手なのに、何故か、不思議な懐かしさを感じる。男の思慮深げなまなざしには優しさの光があり、見る者を安心させ、包み込むような力があるような気がした。
だが、自分の眼の前にある男の広い背中を見ていると、その心細さも薄れてゆくようだ。初めて出逢った相手なのに、何故か、不思議な懐かしさを感じる。男の思慮深げなまなざしには優しさの光があり、見る者を安心させ、包み込むような力があるような気がした。