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無垢な姫は二度、花びらを散らす~虫愛ずる姫君の物語り~

第5章 四の巻

 禁裏の外へと出た男は再び走り出した。
 走る、走る。
 今夜、初めて逢ったばかりの男に背負われて深い夜の底を疾駆してゆく自分が、何か現の中のこととも思われない。まるで、少女の頃に読んだ恋物語の中の姫君のようだ。
 物語の中で姫君は親に命じられ、意に添わぬ結婚をさせられそうになる。失意と悲嘆の淵に沈む姫君の許に、颯爽と現れるのは大抵、若くて謎めいた公達であった。姫君はその公達と共に手に手を取って遠くへと逃げる。

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