無垢な姫は二度、花びらを散らす~虫愛ずる姫君の物語り~
第6章 伍の巻
少し前、公子は公之にここを出てゆくと告げたことがあった。いつまでも公之の懸かり人としてこの別邸に居候させて貰うのも心苦しかったし、何より公之が咎人になることを怖れたのだ。この宇治には幸いにも、昔、民部卿宮であった先々帝の皇子の北ノ方、つまり正室が落飾して尼となって庵を結んでいると聞く。もうかなりの高齢だというが、いまだに健在で一人住まいをしている。
その尼君の許に身を寄せてみようと考えたのだけれど、それを聞いた公之は珍しく顔色を変えた。
その尼君の許に身を寄せてみようと考えたのだけれど、それを聞いた公之は珍しく顔色を変えた。