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無垢な姫は二度、花びらを散らす~虫愛ずる姫君の物語り~

第6章 伍の巻

「姫、一つだけお訊ねしても良いですか」
 問われ、公子は眼を見開く。
 秋の穏やかな陽が女郎花の花に燦々と降り注いでいる。その陽光に眩しげに眼をまたたかせ、公之は呟くように言った。
「姫がここから出てゆかないのは、他に行くところがない―、ただ、それだけの理由なのですか」
 公之と公子の視線が宙で絡み合った。
 まともに公之の顔を見ていられなくて、公子は、ふっと視線を逸らす。

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