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無垢な姫は二度、花びらを散らす~虫愛ずる姫君の物語り~

第6章 伍の巻

 到底、求婚をしている男の声とも思われないほどで、甘さなどかけらも含まれてはいない。
 公子は今夜の公之は怖い―と思った。
 抑揚のない低い声や何を考えているか知れぬ瞳はこれまで公子が見た公之とはまるで違う。
「私は、どうせもう死んだことになっている人間です。今更、そんな風におっしゃって頂けるような女ではありません。捨てるも何も、今の私には持っているものなど何一つありはしないのですから」

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