禁断兄妹
第61章 消せない傷
「ふふ、びっくりしたのかい?目がまん丸だ」
お父さんは愉快そうに笑って
立ち尽くす私に「まあ座りなさい」と灰谷さんの隣の椅子を勧める。
「しばらく会ってなかったから、弘至(ひろし)君が心配して連絡をくれてね」
お父さんは格闘技が好きで
灰谷さんとよく立ち話をしているのは知っていた。
若いのにしっかりした青年だと褒めていたことも。
でも
連絡を取り合うほど仲良しだったなんて知らなかった。
「そうだったんだ。ちょっとびっくりしちゃって‥‥こんにちは、灰谷さん」
乱れてしまった呼吸を整えながら頭を下げた。
「こんにちは。お邪魔してます」
灰谷さんと会うのは柊と灰谷さんの会話をこっそり隠れて聞いたあの日以来
一週間くらいの間に随分日焼けして
減量したのか顔周りがシャープになって精悍さが増したように感じる。
「強化合宿で昨日までタイに行ってたそうだ。そこにあるお土産を頂いたよ」
「あ、ありがとうございます」
「美味しいかどうかわかりませんが、良かったら」
緊張気味の笑顔はきっと私も同じ
目を合わせていられなくて俯いた。
本当に灰谷さんはお見舞いの為だけにお父さんと連絡を取りここへ来たんだろうか
お父さんに私と柊のことを話に来たんじゃ───
「ほら萌、座りなさい。弘至君も」
「いえ、私はそろそろ失礼します。長居してすみません」
立ち上がったままの灰谷さんがそのまま帰り支度を始める。
もう少しゆっくりして行くようにと言うお父さんに
今日から早速シフトが入ってるので、と苦笑いして
また寄らせてもらいますと一礼する。
「ではまた、巽さん。萌さんも。お邪魔しました」
「残念だけど仕事なら仕方ない。また来てくれよ。
‥‥萌、弘至君をお送りしてくれるかい」
「う、うん」
お父さんに促されて
私は灰谷さんと一緒に病室を出た。