禁断兄妹
第61章 消せない傷
長い廊下を無言のまま並んで歩く。
灰谷さんもあえて口を開こうとはしなくて重苦しい空気
あまりの息苦しさに耐えられなくて
「タイに‥‥行ってたんですか‥‥?」
私は思い切って口を開いた。
「えっ?あ、ええ!そうです」
私が話し掛けたのが予想外だったのか
ひどく驚いた様子がおかしくてつい笑ってしまった。
私を見て灰谷さんも照れたように笑う。
その素朴な笑顔に肩の力が抜けていく。
「すごく焼けましたね」
「はは、焼けやすい体質なんですよ。毎日ランニングしてただけで、こんなになってしまって」
キャップ被ってたんだけどなあ、と首を傾げながら
灰谷さんは両手で自分の頬を挟むように撫でる。
「朝から晩までしごかれましたよ。一週間ほどいましたが、宿と道場の往復で、観光とか一切してません」
「えー?せっかく行ったのに」
「ですよね。タイに行く意味あったのかと思いました。これじゃ日本でも同じだろと」
「あはは」
以前のような自然な会話に思わず声をあげて笑ってしまってから
───これからは挨拶程度にとどめておきなさい。レディは男性と距離を置くものだよ───
柊の言葉を思い出して一人首をすくめた。
私はいつも調子に乗りすぎてしまう。