禁断兄妹
第61章 消せない傷
「‥‥あなたは本当に、清らかな人だ‥‥」
深いため息と
小さな呟きが
聞こえた。
「今日私は‥‥ある決意を持って、巽さんに連絡を取りました」
ある決意
その不穏な言葉に
灰谷さんを見た。
「あなたのお兄さんの不埒な行いを、巽さんに話そうと思ったんです」
いきなりの
直球
どすんと投げ込まれて
身体が
自分でもわかるほど
揺れた。
「でも、今日ここに来て、巽さんの姿を見たら、何も言えませんでした」
続いた言葉に
思わず詰めていた息を吐いてしまった私を
見守るようにじっと見ている
灰谷さん
「言わなくて、良かった」
穏やかな表情
「あなたのお兄さんのことは、許せません。
でも、告げ口みたいな真似は、卑怯ですね。二度と考えないことにします」
灰谷さんの静かな声を聞きながら
暴れる心臓を
必死になだめる。
「萌さん」
「は、はい」
「私には、心理カウンセラーをしている友人がいます。幼なじみの女性で、変わり者ですがとても信頼できる人物です。
そいつに会ってみませんか」
「えっ」
「女性同士なら相談しやすいでしょうし、彼女はプロですから秘密を漏らすこともありません」
灰谷さんは
ジーンズのポケットから財布を取り出して
一枚の名刺を抜くと
私に差し出した。
身体が固まって
動けない
「もし気が向いたら、私の名前を出して電話をしてみて下さい。
世間話だけでもいいそうですから」
膝の上で強張ったままの私の手に
大きな手が伸びて
いらなければ捨ててください、と
薄いブルーの名刺が
そっと
握らされる。
「お節介なうるさい奴だと思われても構いません。
あなたを助けたいし、守りたい。その為なら何でもしたいんです」