テキストサイズ

禁断兄妹

第61章 消せない傷




「お時間を頂いてすみません。では私はこれで───」



「どうして‥‥っ」



声が

震えた。



立ち上がろうと
両膝に手を置いた灰谷さんが

動きを止め

驚いたように
私を見る。



「どうしてなんですか?
 私は助けを求めてもいないし、相談したいこともありません。
 どうしてそんな無理矢理、私を被害者にしようとするんですか‥‥っ」



私は被害者じゃない


柊は
加害者じゃない



私達は
ただどうしようもなく

お互いが好きな

だけ



握り締める手の中で
乾いた音をたて

名刺が折れていく。



「前に言ってましたよね。格闘技を始めたきっかけは、大切な人を守れなかったことだと。
 もしかして、その人と私を混同していませんか?
 私はその人ではありません。
 助けは、いりません‥‥っ」



高ぶる思いのまま
一息に
言い切った。


開いた手のひら

握り潰された紙片から
顔をあげると


青ざめ
凍りついている灰谷さんの

これ以上ないくらい

悲しそうな顔が目に入って

我に返った。



言い過ぎ




「ご、ごめんなさい‥‥」



熱くなっていた頭と身体が
一気に
冷えていく。



「本当にごめんなさい、こんな言い方するつもりじゃなかったんです、あの、私───」



「あなたは、優希(ユウキ)じゃない。わかってる。
 
 ‥‥わかってる」



うめくように
そう言って

ゆっくりとうなだれていく
大きな身体



「わかってるんです‥‥」



灰谷さんは伏せた顔を
両手で覆った。


ストーリーメニュー

TOPTOPへ