
禁断兄妹
第61章 消せない傷
「その後の記憶は、ありません‥‥
気がついたら家にいて、ベッドの中で布団をかぶっていました。
親には具合が悪いと言って、夕飯も食べなかった」
消え入りそうな声
鍛え上げられた大きな身体が
今はとても
小さく見える。
「その夜、豆電球の明かりの中で、優希が言いました。
『兄ちゃん、恥をかかせてごめんね』と。
静かな声でした。
私はそれには言葉を返さずに
『明日は休みだし、早起きして一緒に釣りに行こうか』とだけ、言いました。
返事はありませんでした。
でも私には、頷いた優希が、見えた気がしました」
言いたいことは
山のようにあったけど
その時は
どうしても
どうしても言えなくて
「でも明日、釣りをしながらだったら、言える気がしたんです‥‥っ」
灰谷さんは
声を震わせた。
朝日を浴びながら
堤防に二人並んで
光る海を見ながら
それなら
どんなことも
言える気がした
優希だって
話してくれる気がした
途切れ途切れ
繋ぐ言葉が
小さく
なっていく。
「でも‥‥それが、優希と交わした最後の言葉になりました‥‥」
