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禁断兄妹

第61章 消せない傷



翌朝

まだ暗いうちに
強い雨風の音で目を覚ました灰谷さんは

優希さんのベッドが空になっているのを見て
胸騒ぎを覚える


家中どこにもいなくて

もしかしてと
釣具が置いてある物置を見たら

バケツと
釣竿が一本

見当たらなかった



「その後はもう‥‥大騒ぎでした」
 


釣竿とバケツを手に
一人で海へ向かって歩く優希さんを見たという
複数の情報が寄せられた

海を中心とした大がかりな捜索は
悪天候で難航し

優希さんは

見つからず


数日後

穏やかになった海から
バケツと片方の靴が
発見された


足を滑らせたか風に煽られたかして
海に転落したものと思われ

今も優希さんの身体は

見つからないまま



「あんな暴風雨の中、釣りに行くなんて‥‥限りなく自殺に近い事故です」



灰谷さんは
言葉を振り絞る。


実家のお店は
営業が困難になり廃業

灰谷さん一家は

その土地を離れた



「あの時、釣りに行こうなんて言わずに、優希と向かい合って話をしていたら‥‥

 靴を拾えていたら‥‥

 いじめを耳にした時に、守ってやれていたら‥‥

 後悔は際限なく遡っていく‥‥」



頭を抱える両手が

震えてる。



「でも‥‥どんなに遡っても、そこには何もできない臆病な自分がいるだけです。
 威張って取り巻きを引き連れていい気になって‥‥でも中身は、ただの意気地無しでした。

 私は、怖かったんです‥‥」



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