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禁断兄妹

第61章 消せない傷




荒い息に肩を震わせる灰谷さんの瞳から
とめどなく
涙が溢れる。


優希さんが
どうして釣りの道具を持って
一人で海に行ったのか

それは優希さんにしか
わからない

だけど



「優希さんは、灰谷さんを憎んでなんていないと思う。

 海の底にあるのは竜宮城だから‥‥そこにいるかも知れないね。
 でも私は、優希さんは天国にいるんだと思う。私達のこの会話も、きっと空で聞いてる」



「‥‥っ」



「私の父が、母に話した言葉なんだけど‥‥
 『人の許しはちゃんと受け入れなさい』って。『そうすることで、お前もまた人を許せるようになる‥‥巡るんだよ』って」



お母さんから教えてもらった時
よくわからなかった

でも
今はその意味が

わかるような気がする



「灰谷さんも、もう自分を、許してあげて。

 そうすることで、海に行った優希さんのことも、許せるようになるわ。
 噂になった講師のことも、優希さんをいじめた子供達のことも。

 許すことで、灰谷さんは、もう苦しまなくなるわ」



涙に濡れた顔を
灰谷さんは
茫然と私に向ける。



「許す‥‥?」



「うん。そうすることで、灰谷さんはもっと強くなれるんだと思う」



瞳を見開いたまま
言葉を失った灰谷さんの
ゴツゴツとした大きな手

包む両手に私はそっと
力と
想いを込めた。



「もう自分を責めないで。自分を、許してあげて‥‥」



際限なくループする
苦しみの森を

抜けることが
できますように


どうか

この
小さな兄弟に

光を


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