禁断兄妹
第61章 消せない傷
「‥‥萌さんの力になりたいと思っていたのに、逆にあなたから、力をもらってしまいましたね」
そう言って微笑む灰谷さんの表情は
本当に優しくて
胸が
いっぱいになる。
「私の力というより、父の言葉の力です」
「巽さんにも勿論感謝しますが‥‥あなたを通して語られた言葉は、あなたの言葉。あなたの力ですよ」
灰谷さんは
ふふっと笑ってから
少しだけ
真面目な顔になって
「萌さん。
あなたはさっき、助けは必要ないと言いましたよね。
その言葉を信じて、いいんですね?」
「はい」
私は
頷いた。
「わかりました。私はもう、何も言いません。
ただ、私はいつでもあなたの味方だし、今度こそ私が力になる。それだけは忘れないで」
心をこめて語りかけてくれる
灰谷さん
名刺を手渡された時よりも
その真心が
素直に受け取れて
「あの‥‥
一つだけ、お願いをしてもいいですか」
私は自然に
口を開いていた。
「何でしょう」
灰谷さんは小さく首を傾け
穏やかな声で
促す。
「兄を傷つけないと、約束してくれませんか」
私を見つめる灰谷さんの表情が
ふっと
引き締まった。
───覚えておけ‥‥
モデルなんて続けられないくらい、その自慢の顔を叩き潰してやる。
それが嫌なら、萌さんには二度と手を出すな‥‥───
思い出すだけで
心臓が冷たくなるような
あの言葉
現実にする訳には
いかない
から
「兄には、世界中のランウェイを歩くという夢があるんです。
もし怪我をしたり、傷が残ったりしたら‥‥叶わなくなるかも知れません」
灰谷さんは黙ったまま
じっと私を見つめている。
目を通して
私の心の中を
見てる
「兄の夢は、私の夢でもあるんです。
何があっても兄を傷つけないで欲しいんです。
‥‥お願いします」
精一杯の気持ちをこめて
見つめ返しながら
重ねている自分の手が
汗ばむのを
感じた。