禁断兄妹
第61章 消せない傷
「あなたは本当に一生懸命ですね‥‥」
灰谷さんは
厳しい表情を緩めた。
「それがあなたの望むことなら、約束しましょう。絶対に暴力は振るいません」
「ありがとうございますっ」
張り詰めていた緊張が解けて
ほっと
息をついた。
「‥‥彼には、振るわれたんですけどね」
灰谷さんは
ぼそっと呟いた。
「え?」
「あなたがエレベーターで降りてきたことがありましたよね。あの直前です。
肩を掴んだら思いきり蹴られて、膝をついてしまった」
肩を掴んだ私も悪いんですが
まさか蹴ってくるとは思わなかった、と
口調は落ち着いているけど
少し悔しそうな顔
言われてみると
あの時灰谷さんは
慌てて立ち上がってたような
「そ、そうだったんですか‥‥すみません」
柊ったら
私には隠してたんだ
「萌さんは悪くないです。
そういうこととか、派手な女性関係とか、彼には思うところが多々あります。
でももう何も言わないと決めましたから、言いません」
「‥‥」
言葉がない私を
見守るような瞳
「萌さん、私は思うんです。
百歩譲って、優希とあの講師が本当に愛し合っていたとしても、講師の行動はやはり承服できないと」
再び現れた
優希さんの名前
灰谷さんは
穏やかに言葉を続ける。
「同性同士でも構わない。年の差があってもいいでしょう。
許されぬ愛などない‥‥愛は愛です。
でも、性的な関係は心と身体が成熟するのを待ってから結ぶべきだと、私は思うんです。
どちらかが大人なら尚更‥‥それを待てるのが、本当の愛情なんじゃないかと、思うんです」
感情を抑えて
独り言のように
静かに語る声は
すうっと私の胸に入って
音のないさざ波を
立てた
「‥‥身体が冷えてしまいますね。
私の話に長く付き合ってくれて、ありがとう」
灰谷さんは
微笑みながら
ゆっくりと
重ねていた手を引いた。