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禁断兄妹

第62章 夢のチカラ・夢のカケラ




「───さて萌、そろそろ帰りなさい。あまり遅い時間になると心配だから」



部活の話や
学校の話は尽きなくて

気がつくと
窓の外はすっかり暗く
もうすぐ病院の夕食時間だった。



「お父さんと二人だけでこんなに話をしたのって初めてだったから、時間を忘れちゃった。
 すごく楽しかった。
 また二人でお喋りしたいな」



私は大きな窓に歩いていって
カーテンを引いた。



「ああ、またおいで。
 ところで今日柊は家に来てくれるのかい?」



「あ、うん。なんかイベントがあって、それが終わったら来るって」



柊の名前が出ると
どうしてもドキッとしてしまう

お父さんに背を向けていて
良かった。



「そうか。イベントって、机の上のそれだろ」



振り返って机の上を見ると
雑誌の切り抜きが置いてある。

手に取ると
こちらを優しく睨む
切れ長の美しい瞳と目が合った。



「わー‥‥」



ライブとファッションショーの融合
スペシャルゲスト一ノ瀬柊

そんな文字が踊っている。



「看護師さんの中に柊のファンの人がいてね、色々と教えてくれるんだ。
 行ってみたらいかがですかって言われたけど、クラブイベントなんて、この身体じゃちょっと行けないなあ」



お父さんは横になったまま首をすくめ
苦笑した。



「行ってみたらいいのに」



「無理に行って倒れたりして、あいつに迷惑かけるのは絶対に嫌だよ。
 もう少し体調が良くなったら、ショーでも何でも見に行こうと思ってる」



「じゃあ、その為にも元気にならなきゃね。
 お兄ちゃんにも夢があってね、世界中のランウェイに立ちたいんだって。
 有名なデザイナーのショーに出れるように頑張るって。

 お兄ちゃんだってきっとお父さんに見せたいって、思ってるよ」



「世界中のランウェイか‥‥あいつ、腹立つくらいカッコいいな」



クスクス笑うお父さんは
とても楽しそうで
私まで嬉しくなる。


やっぱり夢の話は
お父さんを元気にする力があるみたい

ね、柊

写真の柊に
心の中で話し掛ける。


もうすぐ

会えるね


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