禁断兄妹
第62章 夢のチカラ・夢のカケラ
駆け込んだエントランススペース
入口近くの壁際にうずくまっていた人影が
弾かれたように立ち上がった。
柊
震える唇が
声を出さずに
俺を呼んだ。
萌
どこか半信半疑だった頭が
冷たく冴えていく。
俺の姿を見て緊張の糸が切れたのか
ぐしゃりと泣き顔に歪んだ萌の真っ赤な目から
大粒の涙が
溢れた。
ごめんなさい
人波を抜け
走り寄る俺を
瞬きもせず見つめながら
ごめんなさい
萌の唇が動く。
萌の前に辿り着いた俺は
その頭をひと撫でして
床に膝をつき
目線を合わせた。
「どうして謝る‥‥大丈夫だよ。大丈夫」
地下のバックステージからここまで
全力疾走した心臓は酸素を求め暴れていたけど
精一杯
穏やかに語りかけた。
「よくここがわかったね。一人で来たのか?電車?」
込み上げる嗚咽を必死に飲み下しながら
萌が頷く。
「駅から遠かっただろう。怖くなかったか?」
首を横に振った萌の瞳から
涙が飛ぶ。
震えの止まらない身体
思った以上に
パニックになっている。
抱きしめてやることができないのが
もどかしい
「大丈夫だから。落ち着いて」
濡れた頬を撫で
所在なく震えている両手に俺も両手を伸ばし
そっと握った。
氷のように冷たい
「父さんの具合が悪くなったんだね?先生はなんて言ってた?」
「‥‥家族の人を、呼んだほうがいいって‥‥」
やっと聞こえた声は
か細く
掠れていた。
「でも携帯出ないし、連絡先もわからなくて、こうするしか思いつかなくて‥‥っ」
途切れ途切れ
言葉を繋ぐ。
「そうか、ごめんな。
父さんが今どういう状態か、先生から聞いてるかい?」
「血圧が低くなってて、呼吸が不規則で‥‥意識が、ないって‥‥っ」
「‥‥そうか」
───来週自分がどうなっているか、俺にもわからない───
先週の見舞いの時の
父さんの言葉
それが
現実になろうと
してるのか