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禁断兄妹

第62章 夢のチカラ・夢のカケラ



「お母さんは?帰ってこれるのか?」


「最終便には間に合うって‥‥でも着くのは夜中だよ‥‥

 ねえ、お父さんこのまま死んじゃったらどうしよう、私のせいで、私、が‥‥っ」


萌の息が荒くなり
肩が激しく震える。

俺は繋いだ両手に
力を込めた。


「どうして萌のせいなんだ。そんなことあり得ない、落ち着け」


「私が、いっぱい喋りかけたの、お父さん疲れてたのに、全然気がつかないで、ずっと‥‥!」


「関係ない、考え過ぎだ」


「このままお父さんが死んじゃったらどうしよう、どうしたらいいの?!」


「萌っ」


繋いだ手を
強く揺すった。

びくん、と
萌が息を飲む。


「大丈夫、父さんは死なない。少なくとも、今じゃない」


ぐらぐらと
不安定に揺れる萌の瞳
強く見つめながら言い切って
微笑んだ。


「一ノ瀬さん、ラストの曲、流れました!!」


背中に
さっきの若いスタッフの
切羽詰まった声

DJがかけるラストの曲は
打ち合わせ通り

そしてSEに
繋がる


「今行きます」


萌から目を逸らさずにそう言うと

萌の表情が
また
歪んだ。


「お願い‥‥一緒に病院に来て‥‥」


「勿論行くよ。でも今すぐは無理なんだ。
 出番を減らしてもらえるように演出家に掛け合ってみるから、少し待っててくれないか」


萌と手を繋いだまま立ち上がると
後ろでおろおろしているスタッフに声をかけた。


「すみません、妹を控え室に入れてやってもらえませんか」


「えっ、未成年っていうか、中学生ですよね?入店はやばくないですか?」


スタッフは更に焦りだす。


「店内じゃなくて控え室だし、大丈夫でしょう」


「いや、自分の一存ではちょっと‥‥店側からも年齢確認は徹底するよう言われてるんです、プロデューサーとかに確認しないと」


「もし何かあったら俺が責任取ります、入れて下さい」


こんな所に待たせておける訳がない


「な、なんとかします、とにかく一ノ瀬さん、もうマジで時間が───」


「私、先に病院に戻る!!」


萌が俺の手を
振り払った。

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