禁断兄妹
第62章 夢のチカラ・夢のカケラ
「萌!だめだ危ないから!」
「さっきも一人で来たの!一人でも大丈夫!!」
怒ったようにそう言って
店を飛び出していく。
「バカ、おい!」
ここは駅から離れている
一本道を入れば
暗く物騒なエリア
追いかけて店の外へ出た俺の腕が
「一ノ瀬さん!行ったらやばいっす!!」
悲鳴のような声と共に
強く引っ張られる。
「戻ってこい萌!ここからタクシーを使え!くそっ、あいつ連れ戻してくれ!そうだ和虎は?!和虎呼んで来てくれ!」
「何やってんだ一ノ瀬君!!もうSE流れるぞ!!」
演出家まで
血相を変えてやって来た。
「‥‥っ!すみません!」
曲がり角で消えた
萌の姿
必ず無事に病院へ戻れるよう
祈りを飛ばして
店の中へ駆け込んだ。
「演出変えるぞ!フロア正面から入って、客前でランウェイの先端に上がれ!」
「はい!」
「SE流れました!!」
───父さん?父さん!母さんが死んじゃうよ、今どこ?!早く来て───
───すまない、プレゼンが押して。今向かってるから、すぐ行くから───
あの日の俺の失望は
今の
萌の失望
今すぐは無理だと言った瞬間の
萌の顔
一度も振り返らず駆けていった
後ろ姿
胸に焼き付いて
ひりひりと
痛い
「ファーストルックだぞ!!絶対に失敗するな!!」
「はい!」
父さん
あの日の
あなたの気持ち
引き裂かれるような
痛み
よくわかる
あの日のあなたを
今やっと
理解できた気がするのに
俺達は
これからもっと
分かり合える気がするのに
もう
逝くと言うのか
父さん