
禁断兄妹
第63章 聖戦
「一ノ瀬柊に遊ばれて捨てられて、何もかも失った女がいてね‥‥」
至近距離で向かい合わせになった男は
顎を上げ
冷酷な瞳で
私を見下ろす。
「俺があと五秒遅ければ、飛び降りてた。
‥‥一ノ瀬柊から貰ったチンケな安物握って、一人で死んでたよ」
馬鹿な女だ
そう続けた
独り言のような低い声が
歯軋りするように
震えた。
「馬鹿をどうして相手にする‥‥どうして突き放さない。馬鹿につけ込みやがって‥‥っ」
スーツの内側に入った
男の手
再び現れたその手が
閃いて
飛んだ一筋の光
運転席のハンドルに
一本の細いナイフが
突き刺さった。
「‥‥!!」
「あのクソガキのモデル人生を終わらせてやるのは簡単だ。右目?左目?朝飯前だ。
でもそんなもんじゃ俺の気は済まねえんだよ!!」
スーツの内側から
魔法のように
また現れたナイフ
刃を下にして
私の喉元に突き付けられた。
「一ノ瀬萌‥‥両親の再婚で兄妹になった、血の繋がっていない妹‥‥」
逸らすことも
閉じることも忘れた私の目が
コート
制服
シャツ
ブラ
全てをぶつりぶつりと
下へ向かって一直線に切り裂いていくナイフを
呆然と追う。
「お前を見る一ノ瀬柊の腑抜けたツラを見て確信したよ。お前こそがあいつの心臓だってな」
カーテンが開くように
露わになった肌
胸が
なんの躊躇もなく
鷲掴みされた。
「もがき苦しむ姿を一ノ瀬柊に見せてやれ。
自分の顔を切り裂かれる以上の苦しみを、あいつに与えてやれ。
‥‥それがお前の役割だ」
ナイフを持っていた手は
再び携帯を手にしていて
胸を掴まれたまま
またシャッターが
切られた。
