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禁断兄妹

第64章 聖戦②



「その手を離せ灰谷‥‥こんなところで、誰に何をしてやがる‥‥っ」


底知れない怒りを孕んだ声が
薄闇を震わせる。


遠目にもわかるほど
荒い息に肩を上下させながら

近づいてくる柊


地面に膝をついたまま
凍りついている私達に向かって

まるで
獲物との距離を詰める

飢えた獣の
よう



「そこにいるのは誰だ?萌なんじゃねえのか?

 ‥‥お前がつけてた萌なんじゃねえのか?!このストーカー野郎!!」



叩きつけるような怒声

凍りついたまま動けない私の手が
静かに引かれて

灰谷さんは私を背中に隠しながら
柊へと身体を向けると

歩みを制するように
もう片方の手を柊に伸ばした。



「っ‥‥なんのつもりだ灰谷!!」



気色ばんだ声と共に

足音が
止まる。



「萌さん」



背中越し

私だけに聞こえるように
灰谷さんが早口で囁く。


「あなたとの約束は絶対です。
 しかしこの状況で彼に隠し通すことは不可能でしょう。あの男達も目を覚ましてしまう。
 彼に事実を話して誤解を解いてもいいですか?」



誤解



その言葉に

柊の
凄まじい怒りの訳を
やっと
理解する。



───お前が思う以上に、あいつは危険な人間なんだよ。頼むから気をつけてくれ───



灰谷さんは危険だと
敵視していた柊

この状況を見て

私を襲っていたと
誤解して
しまったの



「どけ灰谷、両手を挙げて立ち上がれ。その背中に隠してるものを見せてみろ」



確かに灰谷さんは
私の後をついてきていた

きっと柊は

灰谷さんだけに

気がついた


でも
もう一人

柊を逆恨みしている
あの恐ろしい悪魔が

灰谷さんの後ろを歩いていたことを

柊は知らない


今もどこかに倒れていて

いつ目を開けるかわからないことも


柊は

知らない


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