
禁断兄妹
第64章 聖戦②
「萌、そこにいるのは萌だろう?俺だ萌‥‥返事をしてくれ」
焦燥感に満ちた声が
今度は私に
投げかけられる。
きっと
五メートルも離れてないところに
柊は立っている
声の近さでわかる
でも
灰谷さんの背中から顔を出すことが
どうしてもできない
悪臭を放つ身体
切り裂かれた衣服
何があったかなんて
言える訳が
ない
「返事ができない状態なのか萌‥‥?
くそっ、どけと言ったのが聞こえねえのか灰谷っ!!」
柊の声は更に熱を帯びて
じゃりっ、と
一歩前に足を踏み出す音。
「‥‥萌さん、決断を‥‥」
押し殺した灰谷さんの声が
切羽詰まったものに変わる。
嫌
いやだ
口にするのもおぞましい
悪夢のような出来事
消したいの
なかったことにしたいの
でも
誤解を解かなければ
今の柊は
灰谷さんに何をするかわからない
それに
手紙
あの悪魔が目を覚ましてしまったら
取り返すどころでは
なくなる
どうすれば
いいの
どうすれば
沸騰していく頭の中
息を殺し
震えるだけの身体
わからない
わから
ない
「柊兄ーっ!!」
突然
遠くから聞こえた
聞き覚えのある声が
限界まで張り詰めていた緊張を
破った。
「柊兄っ、どこにいるのー?!」
その声の方へと
全員の意識が集中する。
「ここだ!和虎!!」
和虎さん
和虎さんまで
来てしまった
もう
だめ
もう
隠し通せない
濡れたアスファルトを
駆けてくる足音を
呆然と聞いていた
私の視界の端で
何かが
蠢いた。
暗がりの中
音もなく
身体を起こしたのは
あの
悪魔だった。
