
禁断兄妹
第64章 聖戦②
「萌が寒がる、駄目だ、離したくない」
「でも、」
「嫌だ!無理だ!動かさねえからこのままやってくれ!!」
熱を帯びた声は
悲鳴の
よう
「柊兄‥‥」
幼い頃
目の前で母親を亡くしたという柊兄
その時のことが
オーバーラップ
してるのか
「‥‥嫌だ‥‥」
消え入りそうな
震え声
「離したく、な、い‥‥」
「‥‥」
こんな柊兄の姿を
誰が想像するだろう
さっきまで
光輝くステージに立ち
視線一つで
フロアの熱狂を支配していた
無敵の王者は
どこにも
いない
ただ
愛する人を失う恐怖に震えている
一人の男が
いるだけ
「ごめん、わかった。じゃあそのままでいいから、頭のほうを高くして」
俺は萌の頭をそっと触り
探し当てた傷口に
ハンカチを押し当てた。
生死に関わるような外傷ではないと思うけど
依然として目を開けない萌
打ったのが頭だけに
不安が募る。
───あなた死相が出てますよ───
要の不吉な言葉が
うるさい蠅のように
何度追い払っても
胸を横切っては
消えた。
