
禁断兄妹
第64章 聖戦②
「よし、車が来た」
ハイタニの声に顔をあげると
近づいてくる
ヘッドライト
「え‥‥?!救急車じゃなくない?!」
俺達の前に停まったそのバンは
車体に病院名が書かれてはいるものの
救急車では
なかった。
「萌さんは大ごとになることを望んでいませんでしたから、私がたまにお世話になっている近くの病院から来てもらいました。そちらへ運びます」
「はあ?!」
唖然とする俺をよそに
毛布を手に
運転席から駆け降りてきた看護師らしき女性は
萌の状態を手早く確認すると
「萌さん、聞こえますか?!目を開けられますか?!」
大きな声で呼び掛けながら
体温が下がってはいけないので、と
半ば強引に
萌の身体を毛布ですっぽりと包んでしまった。
血に濡れた顔だけが露になった
痛々しい萌を
胸に抱き
いまだ茫然自失の柊兄が
看護師に促されて
立ち上がりかけた時
「‥‥萌?!‥‥」
柊兄が
ハッとした声をあげた。
覗きこんだ俺にも
萌の瞼が震えて
薄く開いたのが
わかった。
「萌!!大丈夫か萌っ!!」
半狂乱の柊兄を
薄く開いた萌の瞳が
ぼんやりと見上げる。
「私の声が聞こえますか萌さん!!返事はできますか?!」
よく通る看護師の声は
男だらけの中で
萌の注意を引いたのか
ほんの少し反応を見せた瞳
食い入るように見つめる俺達のまん中で
その小さな唇は
はい、と
動いたように見えた。
そして萌は
夢の中へ戻るように
再び瞳を閉じてしまったけれど
それでも
一瞬でも意識が戻ったことは
本当に心強くて
俺は知らず止めていた息を
大きく吐き出した。
