禁断兄妹
第66章 罪と罰
美弥子の連絡を受けてやって来た葬儀屋のバンに乗り
父さんと俺達は
マンションへと帰ってきた。
葬儀に関することは
あらかじめ父さんが自分の希望通りになるように手配を済ませていて
電話を一本した後は
任せておけばいいだけになっていた。
シンプルな家族葬のプランや場所が
既に決められていて
通夜は
今日の夜。
葬儀屋はリビングに設えたベッドに父さんを安置すると
今後の段取りを俺達に伝え
一旦引きあげていった。
彼らが立ち去ったリビングは
しんと静まり返り
漂う俺と美弥子を
粛々と押し流していた川は
湖にたどり着いたように
その流れを止めていた。
「ふう‥‥」
疲労の色が濃い美弥子
ソファから立ち上がり
ダイニングの椅子を運ぼうとする身体がふらついている。
俺は美弥子から椅子を取り上げると
指さすほうへと運んだ。
「巽さんのベッドのところに‥‥柊君が座れるように」
「俺のか」
「やっと落ち着いたから‥‥ゆっくり会ってあげて」
「ああ」
「私、少し休むね。寝室にいるね」
「‥‥なあ、」
部屋を出ていこうとする美弥子を
呼び止めた。
「うん?」
「死に目には、会えたんだよな」
「うん。一瞬だけ‥‥」
「最期に何か言ってたか」
「間に合ったのは、本当に、ほんの一瞬だったの。声は聞けなかった」
「そうか‥‥」
「巽さんね‥‥看取られるなんてごめんだって、前に言ってたの。
猫は死期を悟ると身を隠すって言うでしょ。本当かどうか知らないけど、できれば自分もそうしたいくらいだって‥‥」
「父さんらしいな」
「でもね、待っててくれたのよ‥‥私を見て、微笑んでくれたのよ‥‥それが最期だった‥‥」
今の美弥子に
これ以上父さんに関することを聞くのは
酷な気がしたけど
「どうして北海道に行ったんだ」
ずっと気になっていたこと
聞かずには
いられなかった。
「いつどうなってもおかしくない状態の父さんを置いてまで、どうして北海道へ行った」
俺の言葉に
美弥子の表情が固くなる。
「責めてる訳じゃない。ただ、知りたい。
父さんからいったい何を頼まれた?
墓の掃除をしに行くだなんて、口実だろう。本当のことを教えてくれないか」