禁断兄妹
第66章 罪と罰
俯き
黙ったままの美弥子
俺も黙って
根気よく返事を待った。
「‥‥巽さんにお願いされてお墓に行ったのは、嘘じゃないわ。
夏巳さんのお母さんにご挨拶しに行ったのも、本当よ」
言葉を選び
考えながら口にする様子は
明らかに秘密を隠している。
「父さんから口止めされているのか?」
「口止めとかじゃないの。
ただ、巽さんと約束したから。ごめんなさいね。誰にも言わないって、約束したから───」
「こうなってしまった今、もう隠したって意味がないだろ。
頼むよ。俺は父さんが何を考えていたか、知りたいんだ」
美弥子は黙りこみ
しばらく逡巡していたが
ついに口を開いた。
「柊君がお見舞いに来てくれた日の夜に、巽さんからあることを頼まれたわ‥‥
何も聞かずに、誰にも言わずに行動して欲しいと言われて、私は約束をしたの」
見舞いに行った日
『俺に言いたいことはないか』と
静かに問いかけられた
あの日
「すぐにでも北海道へ行って欲しいと言われたけれど、巽さんの体調が不安定だったから、私は東京を離れたくなくてぐずぐずしていた。
でも、体調が悪いからこそ、巽さんは私を追い立てて行かせたの。
生きているうちに、方をつけておきたいからって‥‥」
「方‥‥?!」
「やだ、そんな怖い顔しないで」
「‥‥してない」
方をつけておきたい
突然現れた
謎めいた言葉
俺の鼓動は一気に速さを増した。
「巽さんが何に方をつける気だったのかは、本当に知らないわ。
私は約束通り、黙って巽さんの指示に従っただけなの」
「その指示を、知りたい」
「‥‥ごめんなさい。
巽さんは亡くなってしまったけど、私にとってはまだ終わってない。危篤の連絡をもらって慌てて戻ってきたから、頼まれたことはまだちゃんと終わってないの。
もう意味がないって言われても、私は、巽さんとの約束を守りたい」
「美弥子───」
思わず一歩近づいた俺に
美弥子はぺこりと頭を下げると
足早にリビングを出ていった。