禁断兄妹
第66章 罪と罰
もう電車も動き始めた時間だが
和虎はまだロビーにいた。
「萌の目が覚めたら教えてってお姉さんに頼んであるけど、まだみたい」
なんだか気になって帰れなかった、と
疲れた顔で微笑んで
あいつもそうみたい、と
変わらず目を閉じて座っている灰谷を見る。
どこか親しみのこもった視線
誰とでもすぐに打ち解けられる和虎のことだ
きっとここにいる間に
灰谷とも親しくなったんだろう。
「和虎。お前の交遊関係をとやかく言うつもりはないが、灰谷にはあまり気を許すなよ。
あいつが萌をストーカーしてた線を、俺はまだ消してない」
「うん‥‥わかってる」
「萌が起きてないか確認してもらってくる。起きてなくても、病室に入れてもらえるように───」
パタンパタンと
近づいてくるたどたどしいスリッパの足音に
俺と和虎は振り返った。
「萌‥‥!!」
病院のパジャマ姿の萌が
あの看護師に付き添われ
迷子の子供のような表情で歩み寄ってくる。
その足が
俺の数歩手前で
止まった。
「お兄ちゃん‥‥私‥‥全然わからないの‥‥」
冷水を
頭から浴びせられた気がした。
全然
わからない
だと‥‥?
「萌、」
一歩近づくと
萌は口もとを手で覆い
一歩退いた。
それは
手を伸ばしても
届かない距離
俺はもう一歩近づこうとして
やめた。
「‥‥喉、痛いのか。声がまだ掠れてる」
「ちょっと痛い‥‥風邪ひいたのかな‥‥」
「しっかり眠ったか?」
「うん‥‥さっきは寝ぼけてた気がするけど、今はちゃんと起きてる」
会話になっている
ちゃんと起きている
のに
どうして
「大丈夫、落ち着いて思い出してごらん。落ち着けば、思い出せる」
萌に合わせて片膝をついたけど
目が合わない。