禁断兄妹
第66章 罪と罰
萌が嘔吐した時から
ずっと
胸がひりついていた。
今も
明らかに避けられている。
「そういう訳じゃないけど‥‥もしさっきみたく具合いが悪くなったら、嫌だから」
「具合いが悪くなったのは、俺が近づいたせいじゃない。頭を打ったことで吐き気を催すことがあるらしいんだ」
「うん‥‥」
「それに、看護師さんとは近いじゃないか。背中も触ってるよな」
「うん‥‥わかんないけど、この人は大丈夫‥‥」
「俺だって大丈夫だよ。ほら、」
「キャアッ!」
手を伸ばしただけ
なのに萌は悲鳴をあげて
小さく飛びのいた。
「あの、ごめんなさい、わからないんだけど、身体が勝手に‥‥」
俺は言葉が出てこなくて
息を吐き
まだ濡れている髪を
両手でかきあげた。
「ごめんなさい‥‥」
消え入りそうな呟きには
戸惑いが滲んで
萌にとっても不可解なことなのだと
理解はできる
けど
「‥‥違うの、お兄ちゃんだからとかじゃなくて、男の人が、なんだか怖いのかも‥‥」
男の人が
怖い
その言葉に
はっとして萌を見た。
「もしかして灰谷が怖いのか?」
「えっ?」
思ってもみなかったという反応に
俺は取り消すように手を振った。
「いや、あの、ごめん。
‥‥男の人って、どういう意味だ?」
「よくわからないけど‥‥お兄ちゃんだけじゃなくて、灰谷さんや和虎さんを見た時も、同じ感じがしたから‥‥」
思えば
萌が頭を打った時あの場にいたのは
男ばかりだった
あの謎の男も
危篤になった父さんも
男だ
恐怖や痛みが
男に対する嫌悪感と結びついてしまったのか
「そうか‥‥怖がらせて、ごめんな」
ひどく気になったが
今の状態の萌に
これ以上追及すべきじゃないだろう
「ううん、私こそ、ごめんなさい‥‥」
そんな顔を
しなくていい
萌は何も悪くない
そう
頭ではわかってる
でも
心はもがく。
こんな時
いつもなら萌の頭を撫でていた俺の手
行き場を失って
じりじりと
熱を持つ。
萌
俺は
お前の恋人だよ
他の男とは
全く違う存在なんだよ
口には出せない言葉が
喉を焼きながら
腹へと落ちていった。