禁断兄妹
第67章 罪と罰②
そのまま人気のないエントランスの片隅まで引きずられて
やっと解放された俺は
後ろをついてきた灰谷に掴みかかった。
「全部話せ。お前が見聞きした全てのことを話せ」
「‥‥」
「俺はもう知ってしまったんだ。萌があの男に襲われたことをな」
側に立つ和虎が
えっ、と声をあげる。
「萌さんから聞いたんですか」
「今の萌は頭を打ったせいで記憶が飛んじまってる。偶然見た萌の携帯に手がかりがあった」
「記憶が飛んでる‥‥?」
「ああそうだ‥‥なんで、なんで萌があんな目に遭わなきゃならない?!どうしてあんなことになった?!」
吐き出す自分の言葉に
切り刻まれる気がするほどなのに
灰谷は更に険しい表情をして
黙りこんだまま
「俺は真実を知りたい。知らなきゃならねえんだよ!!」
「‥‥誰にも秘密にすると、約束してくれるなら」
「何?!」
「あなたが警察への通報やあの男への復讐など考えず、何も知らない振りができるのなら、話します」
既に熱い身体中の血が
ぐらぐらと沸騰していくのがわかる。
「お前の説教なんて聞いてる暇はねえ‥‥早く話せ」
「約束してもらえないなら、話せません」
「灰谷‥‥お前何様だ?
これは俺と萌の問題だ。余計な口出しせずに、知っていることを全て話せばいいんだよ」
口を引き結んだまま
俺を睨んでいる灰谷
怒りが沸点を超え
思わず拳を振り上げると
すぐさま和虎の両手が巻き付いた。
「暴力はマジでダメだ柊兄!
灰谷さんも悪い!今柊兄は辛い時なんだ、歩み寄れよ!」
灰谷と引き離そうとする和虎ともみ合った反動で
震えていた両足が折れ
地面に膝をついた。
「ご、ごめん柊兄!」
「はあっ、はあっ‥‥くそ‥‥っ」
吐き出す荒い息が
白く煙る。
「ちくしょう、約束なんか、誰がするか‥‥あの男、絶対に探し出してやる、ぶっ殺しても、まだ気が済まねえ‥‥っ」
「一ノ瀬さん、私だって本当は話したい。あなたはもう知るべきだとさえ、思ってる。
でも萌さんの気持ちを思った時、約束なしに話すことは、できません」