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禁断兄妹

第67章 罪と罰②

 

「萌の気持ちだと‥‥?」


知った風な口を


怒りの炎が
更に黒煙を噴き上げる。


「萌のことはなあ!俺が、俺が一番わかってるんだ!!萌だって俺にわかって欲しいと───」


「聞いてください一ノ瀬さん。
 私は最初、泣き寝入りせず警察に届けるべきだと、萌さんを説得しようとしたんです。
 でも萌さんは、何もされていないから誰にも言わないで欲しいと、私に訴えました。
 誰にも知られたくないと、こんなことを知ったらみんなが傷つくと、強く強く、私に訴えました」


紅潮させた頬を震わせ
堰を切ったように灰谷が話し始めた。


「それでも引き下がらなかった私に、萌さんは何て言ったと思いますか?!

 『柊が傷つく』と、言ったんですよ。

 枯れた声でそう叫んで、わんわんと泣いたんです‥‥っ」


押し殺した声を震わせる灰谷を

俺は茫然と見上げた。


「萌さんはあの時、ズタズタに傷ついている自分のことよりも、あなたが傷つくことを心配していたんですよ!!」


───柊が傷つく───


「そんな‥‥嘘だ‥‥」


「嘘じゃありません。
 あの駐車場で、あなたは萌さんに呼びかけましたよね。でも萌さんは私の背中に隠れたまま、出てこようとしなかったでしょう」


「それは、お前が、」


「今となってはあの時の自分の行動に、後悔はあります。
 でも私は萌さんを止めていた訳でも、押さえつけてた訳でもありません。萌さん自身が、あなたの前に姿を現すことを、決断できずにいたんです。
 姿を現せば、あなたに全てを知られてしまう。
 萌さんにとっては、それがどうしても、耐えがたいことだったんです」


「嘘だ‥‥萌は俺に助けを求めようとしても声が出なかったんだ、動けなかったんだ‥‥っ」


「萌さんは喉を傷めていたから声は確かに出なかった。しかし私は誓って彼女を押しとどめたりはしていません。
 その逆です。この状況で隠し通すことは不可能だから、事実を話して誤解を解いてもいいかと、小声で萌さんに問い掛けました。
 でも萌さんは、動かなかった。どうしてもあなたに知られたくなかったからです」


そんな

萌が
俺を頼ろうとしなかった
なんて

俺が
傷つくからだ
なんて

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