テキストサイズ

禁断兄妹

第68章 罪と罰③~灰谷の告白~



「しんとした十字路で、私は茫然と立ち尽くしました。もう足音も聞こえません。
 萌さん、と初めて声をあげました。返事はありません。

 その時思いました。あの男は私を追い越していったのだから、私の存在に気づいていたはず。まさか萌さんに『怪しい奴が君をつけている、振り切ろう』などと言ったのではないか‥‥

 私は血の気が引きました。このままでは本当にストーカーにされてしまう。
 いてもたってもいられず、再び走りだしました。
 萌さんそいつの言うことなど信じないでくれ、そいつのほうがよっぽど怪しいじゃないか‥‥そう心の中で叫んだ時、私の脳裏に、あの不審な車についての情報が甦りました。

 まさかあの男は、最初から萌さんを連れ去るつもりで、言葉巧みに萌さんを誘導したのではないか───

 車まで導きそのまま連れ去る様子がリアルに想像され、愕然としました。
 そもそも自分がここにいるのは、その万が一の事態から萌さんを守る為だったのに‥‥まんまとまかれた自分を殴りつけたい気がしました。

 私は腹の底から萌さんの名前を呼び、灰谷です、返事をしてください、立ち止まってください、そう大声をあげながら走りました。
 取り越し苦労ならいい、私が笑い者になるだけですから。

 辺りをしらみつぶしに駆け回り、すれ違う人がいれば二人のことを尋ね、止まっている車があれば中を覗き‥‥しかし手がかりはありません。

 いったい二人はどこへ向かったのか、もう一度よくよく考えました。
 ふと男が走ったルートを頭の中で平面に書き起こすと、ジグザグと階段のような形を描きながら、ある方角を目指しているように思えました。大きな通りにぶつかる方角です。
 
 そこに何があるのか。黒塗りの高級車なのか。
 急がないと取り返しのつかないことなりそうで、一か八か、私はその方角へ進み‥‥すると広めの有料駐車場が見えてきました。

 そうです、あなた達と会った、あの駐車場です」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ