禁断兄妹
第68章 罪と罰③~灰谷の告白~
「照明設備がなくまっ暗で、エンジン音や物音は聞こえず、人の気配もない‥‥
しかしここにたどり着いたことを偶然とは思えず、私は敷地内へ足を踏み入れました。
二人を見失ってから十分以上が経っていたでしょうか。もう一刻の猶予もないように感じるのに、車の群れは二十台以上はありそうで‥‥焦りを感じていると、奥のほうで、微かに湯気をあげている車があることに気がつきました。
空気が冷えていたことで、車の熱が湯気になって見えたんです。さっきまでエンジンがかかっていた証拠。居並ぶ車の中で、たった一台だけ。
駆けつけた私が目にしたのは、フルスモークの黒塗りの車でした。
駐車場の壁ギリギリに頭を向けて停め、壁と車の鼻先の間に隙間がほとんどない状態です。極力車内が見られないよう意図的にそうとめたに違いありません。
これだけでも疑うに充分でしたが、その上若いチンピラ風の男が暗闇から突然現れて、『俺の車に近寄るな、痛い目をみたいのか』などとヤクザ口調でまくしたて、私を追い払おうとする。萌さんと走り去った男とは別人です。
複数犯による計画的な犯行という疑念が、この時初めて浮かびました。
萌さんはこの車の中にいると確信し、私は男を無視して車に突進しました。
しかし違反と思われる濃いスモークがリアガラス以外にも貼られていて、顔を近づけても中が見えない。スモークが薄いはずのフロントガラスから見ようとした時、後ろから襟首を掴まれて、振り向きざまに殴られ、腹に蹴りを入れられました。
たいして痛くもなかったのですが、何度振り払っても男は執拗に絡みつき、尋常ではない必死さで私を車から引き離そうとします。そいつは見張り役で、親玉の指示を忠実に守ろうとしていたんでしょう。
手を出したくはなかったんですが、もう仕方がなかった‥‥男は二発で気を失いました」