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禁断兄妹

第68章 罪と罰③~灰谷の告白~

 

「真剣勝負は、ほんのニ分位だったでしょうか。
 結果的にあの男は私の右を顎に受けて、崩れ落ちました。
 一瞬、殺してしまったかも知れないと思うほど強烈なパンチが入って、男は完全に失神してしまいました。
 劣勢を感じたのか最後にはナイフを出してきたので、私も全力で闘わざるを得なかったんです。

 本当にあいつは只者じゃなかった‥‥ガードの上から叩きこんだパンチで、男の右手の甲の辺りにヒビが入ったか折れたかした感触がありましたし、蹴りを入れたあばら骨も、一本は確実にいったなという感覚がありました。
 普通なら動けないはずですが、それでもあいつは止まらず、逃げもせず、最後まで冷静な表情で反撃のチャンスをうかがっていました。

 ヤクザだか何だか知りませんが、全く恐ろしい男です。
 私は自分が格闘のプロであったことに、昨日ほど感謝したいと思った日はありません。

 男のポケットにも車のキーがあったので、それで私はやっと車の中に入ることができましたが、目にした惨状はあまりにもむごいものでした。
 口にするのは、辛いです‥‥でも、お伝えします。

 萌さんはシートに横になって、気を失っていました。
 辺りには、あの男の仕業なのか、教科書やノートなど萌さんの鞄の中身と思われる物が散乱していました。

 萌さんの瞼は泣きはらしたように赤く腫れ、両手は縛られ、服は切り裂かれ‥‥しかも萌さんの顔には、男の精液がかけられていたんです‥‥そのショックで嘔吐したのか、吐瀉物と涙にまみれていて‥‥本当に、本当に悲惨な状態でした。

 
 何の罪もない、抵抗する術もない、年端も行かぬ者に、どうしてあんなひどい仕打ちができるんでしょう。どうして‥‥

 理解できない、全く理解できないです。
 あれは、悪魔に心を売った者の所業です‥‥」


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