禁断兄妹
第68章 罪と罰③~灰谷の告白~
「私は萌さんの言う通りにすると決め、二人で速やかにその場を立ち去ることにしました。
男達をみすみす逃してしまうことになりますが、萌さんに暴行を働いたあの男は大怪我をしているでしょうから、それで溜飲を下げるしかありません。
辺りに散らばる萌さんの持ち物をかき集めていると、萌さんの物と思われる携帯を、あの男のポケットから取り上げておいたことを思い出しました。
キーはないかとスーツのポケットを探った時に、見覚えのあるピンク色の携帯が入っていたので、萌さんの物かも知れないと思いキーと共に取り上げておいたんです。
それを差し出した時の萌さんは‥‥真っ赤な目を真ん丸にして‥‥そして両手に包んだ携帯を胸に抱きしめ、泣いていました。
奪われた物を取り返せたことに安堵しているのだと思っていました。あの男が撮影した暴行の写真が、その携帯の中にあったなんて、その時の私は知らなかったから‥‥
あの時の萌さんを思い出すと、その心情が苦しいほど胸に迫ります‥‥可哀想に、写真の存在にどれほど恐怖を感じていたか‥‥
萌さんは心底ほっとしたことで緊張の糸が切れたのでしょう。身体に力が入らない様子だったので、私がおんぶをして、車から出ました。
タクシーが拾える通りまで走ろうと思っていましたが、それまでぐったりとしていた萌さんが、なぜか急に私の肩を叩き、暴れだしたんです。
どうしたのかと問い掛けましたが、萌さんの喉はもう言葉を発することができる状態ではありませんでした。
とにかく降りたいのだろうと思い地面に降ろしてあげましたが、足に力が入らず動けない。ボロボロの状態ですよ、本当に。
喉を押さえ、苦しそうな表情で必死に何かを訴えるのですが、口の動きだけではどうしてもわからなくて‥‥
辺りを見回したことから、何かあの男達に関係することなのかも、とは思いましたが、今でもわからないんです。
『エアイ』とか『テカニ』とか、それに近い三文字の言葉のように感じましたが‥‥
一ノ瀬さん、それに似た言葉に何か心当たりはありませんか?
‥‥そうですか。そうですよね。
何か思い出したら、私にも教えてください。和虎さんも。
ずっと気になっていて‥‥どうかお願いします」