禁断兄妹
第68章 罪と罰③~灰谷の告白~
「萌さんにとって、あの場から一刻も早く逃げることよりも、それを私に伝えることの方が大切だったのですから、何かとても重大なことだったのでしょう。
なんとしても理解したくて、それで文字を書いてもらうことを思いついたんです。
地面でも私の手のひらでもいいから、指で文字を書いてくれればすぐにわかると。私は興奮して思わず萌さんの手を取りました。
まさにその時、一ノ瀬さん、あなたが現れたんです。
動けない萌さんは地面に座りこみ、私は前のめりになってその手を掴んでいた。マンションから遠く離れた、真っ暗な駐車場の片隅で。
突然あなたが現れたことに、私も萌さんも驚き、凍りつきました。
何よりあなたの凄まじいまでの怒りに、圧倒されました。
辺りは真っ暗でしたし、ちょうど私の陰になっていた萌さんの顔は、まだあなたに見えていなかったと思いますが、それでもあなたは萌さんの存在を確信し、激しい怒りをぶつけてきた。
確かに誤解されるには十分な状況です。しかし今までお話ししてきたような経緯があっての、あの状況です。
私は固く心に決めていました。萌さんの望み通り、一ノ瀬さんには絶対に知られないようにすると。
正しいとか間違ってるとか、どうでもいい。ただ萌さんの願いを、叶えたかった。
でも、それを貫き通すには、あまりにも絶体絶命の場面でした。
それで私は萌さんを背中に隠し、一ノ瀬さんへ待ったをかけるように手を伸ばしました。
背中の萌さんに、この状況で隠し通すことは不可能だし、あの男達も目を覚ましてしまう、一ノ瀬さんに事実を話して誤解を解いてもいいですかと、小声で尋ねました。
これは先程もお話ししましたよね。
この時の私の行動はあなたを更に怒らせてしまいましたが、萌さんの承諾なしに、私一人の判断で動きたくはなかった。
『柊が傷つく』と泣き叫んだ萌さんの想いを、尊重したかった。
でも私の問い掛けに萌さんは微動だにせず、再度決断を促しても、震える息遣いが聞こえるだけで‥‥
そうこうしている内に、和虎さんもやって来てしまった。
もう逃げられないぞ、と一ノ瀬さんに言われましたが、まさにその通りでした。
でも、それでも私は、萌さんの想いを守りたかった‥‥」