禁断兄妹
第68章 罪と罰③~灰谷の告白~
「これには事情があるんだと、お願いだから黙って私達を行かせてくれないかと、私はあなたに両手をつき、頭を下げましたよね。
もう情に訴えるしかなかった。あなたの目にはさぞ滑稽に映ったことでしょう。
それでも事態は変わらず、もう万策尽きた私は、あなた達に殴りかかり蹴散らした隙に萌さんと逃げるということまで、考えました。
でも、やっぱりそんなことは、できなかった。
更に大ごとになりかねないし、それに私はね、一ノ瀬さん、昨日萌さんと病院で話をした時に、お願いされていたんです。
『兄を傷つけないと、約束してくれませんか』と。
何故萌さんがこんなことを私に言ったか、わかりますか。
一週間ほど前、マンションの前にある中庭で、私とあなたの二人きりで話をしたことがありましたよね。あの時植え込みのところに萌さんが隠れていて、私達の会話を聞いていたんです。
あなたのことが心配で、学校へ向かった振りをして、私達のあとをついて来たんでしょう。あなたは気づいていない様子でしたが、私は最初からわかっていました。
あの時に私があなたに言った『モデルなんて続けられないくらい、その自慢の顔を叩き潰してやる、それが嫌なら萌さんには二度と手を出すな』という言葉に、萌さんは胸を痛めていたのだと思います。
『兄には世界中のランウェイを歩くという夢がある、もし怪我をしたり傷が残ったりしたら叶わなくなるかも知れない』
『兄の夢は、私の夢でもある』‥‥そう言っていました。
しっかりとした口調で、真っ直ぐに私を見る瞳は、一途で、けなげで‥‥
その時に私は、何があっても一ノ瀬さんに暴力は振るわないと、約束したんです。
だから私は、どれほどあなたに罵倒されても、言葉の力で、あの窮地を脱っしたかった。
しかしあなたに信用されていない私の言葉は聞き入れられるはずもなく、和虎さんには私が持っていた萌さんの学生鞄のことを指摘され‥‥それによってあなたは更に逆上してしまった。
そして、あの出来事が起きてしまったんです‥‥」