禁断兄妹
第70章 謙太郎と手紙
ふっと目を覚ますと
枕元にある時計は六時を指していて
もう朝
まだ夢の中のような
重たい頭
少しづつ霧が晴れるように意識がはっきりしてくるけれど
記憶は
戻っていない。
夢ならいいのに
傷のところがズキンと痛んで
夢じゃないことを思い知らされる。
もう眠れなくて起き上がったけど
部屋にはお母さんもお兄ちゃんもいなかった。
身支度を整えて一階におりてみたけど
ここにも誰もいない。
「お母さーん‥‥」
でもお線香がついてるし
二人ともちょっと席を外してるだけなんだろう。
広いリビングのような部屋
私は祭壇の前にあるお通夜の時に座った椅子じゃなくて
部屋のすみにある応接セットに腰掛けた。
今日は告別式というものがあって
それが終わるとお父さんは
火葬場へ運ばれてしまう。
どうしてすぐ焼いたりするんだろう
もしかしたら生き返るかも知れないのに
「お父さん生き返ってよ‥‥まだ間に合うよ‥‥」
また涙が零れて
ソファに倒れこんでいると
扉が開く音がして
お母さんの声が聞こえた。
「あ、もしもし、すみませんお待たせして‥‥はい、大丈夫です。周りに誰もいないところで話しています」
電話
してる。
「謙太郎さん、お電話くださって本当にありがとうございます。
所属事務所の方にも色々無理を言ってしまって‥‥あの、今どちらにいらっしゃるんですか?
‥‥えっ、パリ?わあ、すみませんお忙しいところ‥‥」
ケンタロウ
その名前に
頭の中でバチッと強く
火花が散った。