禁断兄妹
第70章 謙太郎と手紙
「あ、はい‥‥手短にお話しさせて頂きます、ええ、少しだけお時間をください。
まず先に申し上げておくと、巽さんは胃ガンで闘病中だったんですが‥‥一昨日の深夜に、亡くなりました。
‥‥いいえ違います、危篤を知らせたくて連絡を取りたかった訳ではないんです。
あの、今回のいきさつを少し聞いてもらえませんか?」
さっきの感覚は何‥‥?
ケンタロウ‥‥?
「つい十日ほど前のことなんですが、巽さんが『生きているうちに、方をつけたいことがある』と言って、私に二つのことを頼んだんです。
一つは、夏巳さんのお墓に入れてある手紙を取ってくること。
もう一つは、巽さんのもとへあなたをお呼びすることでした。
『手紙を謙に返して、そして謙に聞きたいことがある』‥‥巽さんはそう言っていました」
いくつもの
火花が散った。
カタヲ ツケタイコト
ナツミ
テガミ‥‥
「そうです、手紙です‥‥夏巳さんのお墓の中には、お骨と一緒に一通の手紙が封じ込まれていたんです。
夏巳さんが亡くなる数日前に謙太郎さんに宛てて書いた手紙で、十四年前、納骨の際に巽さんが入れたそうです。
‥‥あの‥‥もしもし‥‥?
あ、すみません、聞いて頂けてるならいいんです。はい。
私が手紙を北海道へ取りに行ってきたのは、一昨日です。
雨水が染みたりして読める状態じゃないかも知れない、と巽さんは心配していましたが、とても綺麗な状態でした。
封筒の表に書いてある『謙太郎へ 夏巳』という文字もしっかり読めます。
それを電話で巽さんに伝えると、とてもほっとした様子でした。
『あとは謙が来てくれれば‥‥』と、希望に満ちた声を出していました。
手紙は今ここにあります。
きちんと封がされたままで、誰かが開けた形跡はありません」