テキストサイズ

禁断兄妹

第70章 謙太郎と手紙


そのまま、沈黙が続いた。
 
私はソファに突っ伏したまま
息を殺して
お母さんの声に耳を澄ます。


「えっ‥‥

 今、受け取れないって、仰いました‥‥?

 そんな‥‥あの、どうしてですか?!
 夏巳さんが、あなたに宛てて書いた手紙なんですよ?それも亡くなるほんの数日前に───

 ‥‥読む資格がない‥‥?

 ごめんなさい、あの、どういう意味ですか?

 ‥‥そのままの意味って、そんな‥‥」


戸惑うお母さんの声と一緒に
私の心が
揺れる。


「‥‥えっ?

 棺に入れるって、つまり、この手紙を、焼いてしまうってことですか‥‥?!」


‥‥焼く‥‥?


「た、確かに今日は告別式ですから、棺はあります、今この部屋にありますよ、でも‥‥!!

 この手紙をあなたに返すことは、巽さんの最期の願いと言っても過言じゃないんです、叶えてあげたいんです。
 
 パリでもどこでも、私が責任を持って直接お渡しに行きますから、お願いします、どうか受け取ってくれませんか‥‥っ?!」


焼いちゃだめ

だめだよ


「‥‥はい‥‥はい‥‥

 ‥‥そうですね、この手紙はあなたのものですから、どう扱うかは、あなたの自由ですね‥‥


 わかりました。
 仰る通りにします」


そんな
やめて


「‥‥はい。必ず棺に入れます。
 はい、この電話のことも他言はしません。
 ここにいるのは巽さんだけです‥‥

 巽さんの前で嘘はつけないですから。どうぞ私を信じてください。

 はい、では、失礼致します‥‥」


いつの間にか
ぎゅっと組み合わせていた両手から
力が抜けていった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ