禁断兄妹
第70章 謙太郎と手紙
コツコツと
お母さんの靴音が
ゆっくり前のほうへ向かって
お父さんが眠る箱の
窓を開ける音。
「巽さん。
謙太郎さんと今、お話ししましたよ。
『僕にはその手紙を読む資格はありません』と、言っていました。
それまでのわずらわしそうな口調が一変して‥‥呻くような声で、『読めない、読める訳がない』って。
何か、深い業のようなものを、感じました。
この手紙は、夏巳さんのもとへ巽さんに持って行ってもらいたいそうです。
人を寄せつけないような、冷たい感じの方なんですけど、それは謙太郎さんの鎧なんでしょうね。
本当は繊細な方なのかも知れません。
‥‥巽さん。
私、こう考えることにします。
巽さんの言う通り、手紙は謙太郎さんへお返しした。
そして謙太郎さんはその手紙を天国の夏巳さんへ返したいと、巽さんへ託した。
どうでしょう。
無理に謙太郎さんにお返ししても、あの様子では読まれることのないまま、謙太郎さん自身の手で焼かれてしまうか、再び封じ込まれてしまうかだけだと思います」